転送料無料のオブジェクトストレージを求めて
これまで趣味サービスのオブジェクトストレージは、ディスク容量が大きいVPSにMinIOをインストールして自前運用していました。最近運用がしんどくなってきたのでマネージドサービスへ移行中なのですが、転送量課金の心配で消耗したくないですよね。
転送料無料を謳っているサービスについて、本当に無料なのか、制限は何か、という点を中心に調べました。
前提
- ここで言う「転送料無料」とは、インターネットに対するインバウンドおよびアウトバウンド通信のデータ量に課金されないことを意味します。
- 同一プロバイダ内のあるサービスと組み合わせれば実質無料、みたいなものも除きます。
- 法人限定ではなく個人でも契約可能なサービスを対象とします。
Wasabi
転送料無料を積極的に謳っているサービスとして恐らく最も有名なWasabiです。
ただ実際には以下のイーグレスポリシーの定める範囲内でのみで成立します。簡単に言えば、毎月の転送量はストレージの使用容量を超えてはいけない、としています。
https://wasabi.com/paygo-pricing-faq/#free-egress-policy
- If your monthly egress data transfer is less than or equal to your active storage volume, then your storage use case is a good fit for Wasabi’s free egress policy
- If your monthly egress data transfer is greater than your active storage volume, then your storage use case is not a good fit for Wasabi’s free egress policy
また、ストレージ課金には最小ストレージ期間があることと、1TB分の最低料金($5.99/月、APACは+1.00$)が設定されていることも注意が必要です。
https://wasabi.com/paygo-pricing-faq/#wasabi-charges-calculated
日本(東京・大阪)にもデータセンターあるのは良いですね。
ConoHa オブジェクトストレージ
制限やポリシーに関する記述は見つけられませんでした。実際には怒られが発生するやつなのかどうか分かりません。動画配信の事例が紹介されているので、割といけるのかもしれません。
課金体系はシンプル。課金は容量100GB単位で月額495円、時間単位課金も可、最低利用期間もなし。ただし、実装はOpenStack Swift。
残念ながらGMO系列なので、私は宗教上の理由で利用することはないでしょう。
iDrive e2
もともとデータバックアップやクラウドストレージを売っている会社のようです。e2についてはあまり情報がないですが、割と最近ローンチしたばかりのようです。
イーグレスポリシーについては、毎月の転送量がストレージ容量の3倍以下までであればOKとしています。Wasabiより緩いポリシーですね。使用容量なのか契約容量(1年間契約プランの場合)なのかが明確ではないですが、1年契約が安いのが魅力的です。
https://www.idrive.com/e2/faq-account-management#egress-policy
- Good fit - If the monthly egress (download) is less than or equal to thrice the storage volume.
- If your use case exceeds the guidelines of our free egress policy, we reserve the right to charge $0.01/GB/Month. In the case of free accounts, your account will be suspended.
リージョンは北米・ヨーロッパのみで、残念ながらアジアには存在しません。米西海岸のSan Joseがあるので、多くの用途では十分かとは思います。リージョンによっては、経路の問題なのか全くスループットが出ないことがありました。なお、ストレージの契約はリージョンと紐付かないので、後から自由にリージョンを選んでバケットを作成できます。
また、契約してから気づいたことですが、パブリックアクセス設定が現在できないようになっています。いつかは利用可能になると思いますが、このままでは用途が限られてしまいますね。
⇒ 修正され、現在利用可能になっています。
追記 2023-11-05
サービス開始からしばらくして、色々サービス内容に更新があったので追記です。
まず年間契約の価格に何度か変更がありました。
- サービス開始当初: 1TB $40/y
- 2023-07頃1: 1TB $20/y
- 2023-11現在: 1TB $30/y
既存顧客には特段の告知は無かったのですが、当初の価格から半額に変更された時期がありました。 サポートに連絡してみたところ、同じ価格で倍の容量のプランにアップグレードしてもらえました。 なお、現在はまた価格が変わり、当初よりは安いですが若干値上げされてました。安くしすぎたんでしょうね。
また、シンガポールリージョンが追加されました。
IDrive® e2 Offering Hot S3 Compatible Object Storage with new Storage Region in Singapore
東京ではなく残念ですが、米西海岸よりさらにレイテンシが抑えられるので、嬉しいアップデートでした。
Contabo Object Storage
格安VPSプロバイダとして有名なContaboのオブジェクトストレージです。こちらも今年の3月にローンチしたばかりのサービスです。
他サービスで見られたストレージ容量を基準としたイーグレスポリシーは無いようです。代わりに、10MB/sの帯域制限が設けられているのが特徴的です。
https://docs.contabo.com/docs/products/Object-Storage/technical-description#limits
- bandwidth is limited and regularily adjusted. The default limit is 10 MByte/s (=80 Mbit/s).
ストレージ単価が$2.99/250GBと他比較すると若干高いですが、転送量の面では自由度が高いです。
リージョンは、ドイツ、シンガポール、アメリカ(St. Louis)の3つのみです。
実際使ってみた感想としては、若干サービスが不安定なのが気になりました。ListObjectsするだけで数十秒待たされたり、スループットが異様に低い時があったりします。また、バケットのURLとして仮想ホスト形式が使えず、パス形式のみなのが地味に不便です。
Cloudflare R2
つい先月GAとなったサービスです。こちらも転送料無料を強く打ち出し話題となりました。オープンβ時には無かったパブリックアクセス機能も実装されています。
$0.015/GBのストレージ料金が許容できれば、転送量の面ではこれ一択なのでは、という気がしています。
確認すべき点は、APIリクエストに課金されることと、APIのS3互換性です。
APIリクエストについては、個人利用ではあまり問題にならないくらいに無料分が大きいです。
- Class A Operations: 1 million requests / month
- Class B Operations: 10 million requests / month
APIのS3互換性については、必要な機能が実装されているか十分検証が必要でしょう。特にACL周りは利用しているアプリケーションが多いと思うので注意です。
R2 / Data Access / S3 API / S3 API compatibility
未実装の機能に関するヘッダを付けてリクエストすると、それらを無視して処理するのではなく、ご丁寧に 501 Not Implemented
を返してくるので、場合によってはアプリケーションに修正が必要になります。
まとめ
主な情報を表にまとめました。
サービス名 | イーグレスポリシー | APIリクエスト課金 | ストレージ料金 (月額・最小単位) |
ストレージ料金 (月額・1TB換算) |
---|---|---|---|---|
Wasabi | ストレージ容量以下 | なし | $5.99/TB (APAC: $6.99/TB) |
$5.99 (APAC: $6.99) |
ConoHa | なし | なし | 495円/100GB | 4950円 |
iDrive e2 | ストレージ容量の3倍以下 超過分は $0.01/GB/m |
なし | $0.004/GB (年払い: $2.50/TB2) |
$4 (年払い: $2.502) |
Contabo Object Storage | 10MB/s 帯域制限 | なし | $2.99/250GB (APAC: $3.39/250GB) |
$11.96 (APAC: $13.56) |
Cloudflare R2 | なし | あり | $0.015/GB | $15.36 |
とにかく転送量が大きい場合はR2使っとけ、ということで良いのではないでしょうか。ストレージ容量重視で転送量がある程度コントロールできる場合は、iDrive e2が適してそうです。
私は現在iDrive e2、Contabo Object Storage、Cloudflare R2の3つを使い分けています。
Contabo Object Storageを継続利用するかはちょっと微妙で、今後はR2に寄せていくつもりです。